1枚の名刺
名刺を整理していたら、ある1枚の名刺が目にとまった。千代田区にある省庁の名前の横に、肩書きと本人の名前が大きく楷書で記されている。確かこの名刺は、何年か前に、渋谷の小さなとあるバーに友人達と行った際にもらった名刺だ。
店主が1人でやっていたそのバーは、狭くて薄暗く、カウンターが4席とテーブル席が2つしかなかった。おまけに場所も分かりにくく、いまだにどこにあったかが漠然としている。
都合で閉めることになったからと友人が聞き、それなら最後に行かなくてはと、何人かで誘い合い週末の夜に行ったのだ。
名刺の男性は、1人で来ていた。角のほうにポツンといて、たまたま隣に座った私が、何かのきっかけで話しかけたのだ。店はいつもジャズが流れていたから、それを聞きに通っていたのかもしれない。淡々としゃべりながら仕事の話になったときに、この名刺を受け取った記憶がある。
「この人、今どうしているのだろう」と思い、検索してみると、見事にヒット。「そうかあ、こんなに偉い人だったんだ」。さまざまな仕事に従事し、輝かしい経歴が並んでいる。
きっと、つかの間の息抜きで、あの小さなバーに通っていたんだろうなぁ。私が、名刺を持っているなんて思いもよらないだろうけど。
新しく息抜きできる場所が、見つかっているといいなぁ。